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かがみの孤城

かがみの孤城

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あらすじ

中学一年生の「こころ」は同級生との諍いから不登校となり、母親が探したフリースクールにも行くことができず部屋に閉じこもっていた。

5月のある日に、こころの部屋の鏡が輝きだし、手を触れると中に引き込まれる。最初は鏡の世界から逃げしだしてしまったこころだが、翌日に再度、鏡の世界に入り込み、そこで、同世代の少年少女たちと出会う。

狼の面を被った少女「オオカミさま」がこの世界のルールを説明する。
「翌年の3月30日までに、願いの部屋の鍵を探し出せば、一つだけ願いが叶う」
「だれも鍵を見つけられなければ、3月30日にこの世界は消滅する」
「鏡の世界に入れるのは、日本時間の午前9時から午後5時まで、それ以降まで残っていると、狼に食べられる」
という。

こころたち 7人の少年少女は、恐る恐る交流を深めながらそれぞれが願いを叶える鍵を探し始める。

感想・考察

著者の、中学生たちの「生き辛さ」の分析が鋭い。

「思春期は生き辛いものだが、信頼できる仲間と、寄り添う大人がいれば乗り越えられる」という話だ。

思春期の少年少女自身は
・若さゆえに感受性が強く、
・自我が確立しない分、人間関係に過敏で
・恋愛感情に初めて触れることでも混乱し、
・学校などの所与の環境は変えられないものだという思いがあり、
・経済的にも親から自立できない立場にある。
というのが一般的傾向だ。

また、彼らを囲う外的環境にも
・人間関係が固定化されやすい学校という仕組み
・監督者としての教師の機能の限界
・親は子を思う故に、過干渉に走りやすい。
というような事があり、生き辛さを加速している。

そういう息苦しさが、時にイジメなどの形で噴出したり、内に向かって閉じこもったりしてしまうのだろう。

 著者は、その救いとして「喜多嶋先生」と「孤城に集う仲間たち」を登場させている。

喜多嶋先生は、本気で、こころに寄り添おうとする。
「たたかわなくてもいい」という選択肢を与え、嫌いなものは嫌いと言ってよいと伝え、徹底的に、こころを理解しようと努める。

また、喜多嶋先生は、こころの母親にも働きかけ、愛情の強さゆえに感情的になること、過干渉に走ることを抑える。
孤城の仲間たちとの関係からは、自己開示を恐れることはなく、距離を縮められることを学び、信頼できる仲間同士は大きな力になることを学ぶ。

全編を通してとにかく暖かさが満ちている。

ミステリ的な仕掛けは王道過ぎて、すぐに読めてしまうが、救いの物語を盛り上げる小道具として上手く効いている。

最終部分ではまんまと泣かされた。。

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