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双子の悪魔

双子の悪魔

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あらすじ

中華料理チェーン店で、TOBを利用した株価操作事件が発生した。
大和新聞社の 菊田美奈子はTOBの仕掛け人から名指しで連絡を受けたことなどから巻き込まれ、前線記者から外されてしまった。

美奈子と同郷で、プロレス興行会社UEWの運営に携わっている本条潤一郎は、UEWに出入りしている沼田が、西太后TOB事件の黒幕であることに気づき、美奈子と情報を共有する。

美奈子は沼田がかつて大和新聞販売店で優秀な成績を収めた営業員だったことを知り、同期の秋田英里とともに販売店を訪れその足跡をたどった。

潤一郎の伝手を借り、沼島を実業界に引き立てた社長を訪ねたが、その直後に彼は覚せい剤の所持使用容疑で逮捕される。
潤一郎に情報を流した 沼島の愛人も謎の自殺を遂げていた。

潤一郎は、UEW社長に沼島が危険な人間であることを説き、融資を断るよう進言した。代わりにクラウドファンディングのような仕組みを導入し、興業のWEB配信でも利益が出せるよう外部企業と提携を進めていく。

美奈子は沼島がなぜ自分に攻撃を仕掛けるのかを考えた。
かつて沼島が美奈子の父が経営する会社と取引関係にあったことを知り、故郷を訪れ当時起こった事件について知ることになる。

UEWのWEB配信では、システムの穴を突き上乗せした料金をかすめ取っていた自体が発覚し、会社存続の危機を迎える。発注したシステム会社の社長が関与を認めたが、その社長も拳銃自殺をしてしまう。

いくつもの事件に翻弄された美奈子は、英里たち新聞社同期で温泉旅行で疲れを癒していた。ところがそこに沼島が現れ、英里を人質にとって詐欺の証拠となるデータを引き渡すよう要求する。
警察に包囲された沼島は間欠泉に身を投げ自殺したかに思われた。

感想・考察

「この国には、目に見えない壁、出身地や生まれた家、育った環境でその後の人生をきっちり決められてしまう何かがある。奴は、必死でその壁を壊しているんだ」

本作では「社会の底辺に属する人間」が社会の壁と戦うのを、「恵まれた人間」側の視点で描いている。

同じ著者の作品「震える牛」では、庶民の視点から行き過ぎた自由主義経済が社会を壊す様が書かれていた。
本作も同じように底辺側の視点だけであったなら「貧乏人のルサンチマン」で終わってしまったかもしれない。それを社長令嬢の美奈子という恵まれた側から見ることで重層的な深みが生まれている。

沼島の戦い方は胸糞悪い。人を騙し、時に死に追いやるような残酷さだ。
だが、苦しむ人の存在を認識すらせずに社会正義を唱える新聞記者の美奈子にも、反感を覚える。

両者が交わるためには、お互いがお互いを知ることが必要なのだろう。

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