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有頂天家族

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あらすじ

京都に暮らす狸の下鴨一家のお話。

下鴨一家の父 総一郎は、かつて京都狸の頭領「偽右衛門」だったが、「金曜倶楽部」の人間たちに、忘年会の狸鍋として食べられ死んでしまった。

宝塚に心酔する母は、総一郎亡きあと4人の息子たちを育てる。

長兄の矢一郎は、真面目で能力は高いが融通が利かずピンチに弱い。父総一郎の跡を継べく「偽右衛門」を目指し、叔父にあたる夷川早雲と競い合う。

次兄の矢二郎は、かつて父総一郎と酒を飲み交わし一緒に暴れまわる関係だったが、父の死後は蛙に姿を変え寺の古井戸で暮らしていた。あまりにも長く蛙の姿でいたため、狸に戻ることができなくなってしまう。

物語の語りでである三男の矢三郎は 化けるセンスは抜群で、機転もききすばしっこいが、父総一郎ににて「阿呆」の血が濃くはしゃぐのが好きで、頻繁に騒ぎを巻き起こす。

末弟の矢四郎はまだ幼く、怖がりで化ける能力も限定的。夷川早雲の向上で「偽電気ブラン」を作る仕事をしている。

矢三郎は、四人兄弟の師匠だった赤玉先生の世話をしていた。赤玉先生は人間の女性である鈴木聡美に惚れこみ、のちに弁天と名乗る彼女に天狗としての能力を教え込んでいった。やがて彼女に天狗の道具を貢ぎ、彼女の策略で空から落ち腰を痛めて、天狗としての能力を失っていった。今では古びたアパートで暮らし、好物の「赤玉ポートワイン」をなめながら、弁天が帰ってくるのを待ちわびている。
弁天は天狗として高い能力を誇っていた。忘年会に狸鍋を食べることを定例としている「金曜倶楽部」のメンバーでもあり、京都の狸たちからは怖れられていた。矢三郎も弁天に恐れを感じていたが、同時に憧れも持っていた。

京都の狸たちは送り火を空に浮かぶ船から鑑賞することを伝統としていたが、下鴨家の船は前年に夷川家との諍いで壊されてしまっていた。
矢三郎は弁天の持つ空に浮かぶ奥座敷を借り「もし奥座敷を傷つけたら金曜倶楽部で芸を見せろ、受けなければ狸鍋になれ」という条件を受け入れる。
だが今年も夷川家と衝突し、弁天の奥座敷は大破してしまう。身を案じた矢三郎は大阪まで逃亡した。

結局弁天に捕まった矢三郎は金曜倶楽部で芸を披露し、何とか好評で弁天の許しを得ることができた。金曜倶楽部のメンバーで狸を愛する「布袋」は「食べることも愛」だと語り、弁天は「好きだから食べてしまいたい」と言う。

金曜倶楽部で狸鍋が供される忘年会の日、狸たちは「偽右衛門」を集会を開く。候補者の一人である長兄の矢一郎は、もう一人の候補者 夷川早雲たちの策略にはまり捕獲されてしまう。狸鍋の具材として金曜倶楽部に献字られてしまった。

母、矢三郎、矢四郎もそれぞれ監禁され助けに行くことができず、下鴨家は最大危機を迎えた。

感想・考察

狸の緩い生き方が素晴らしい。
「とくに願いはないのだ。とりあえずみんなが生きており、とりあえず楽しければよかろう。面白く生きるほかに、何もすべきことはない」と、矢三郎は言う。

自分の使命を信じ一心不乱に打ち込む生き方も素晴らしい。そういう人たちが世界を動かす。
一方で「愛する人たちと日々を楽しく生きること」が一番重要だという生き方も悪くないと思う。

でも「とにかく楽しく生きよう」というのもなかなか難しい。
私たちが「狸鍋」にされることはないが、弱肉強食の世界に生きていることには違いない。夷川早雲のように露骨でなくても、自分の目標達成のため周囲の人間を蹴散らそうとする人間もいる。
ただ楽しく生きるためにも強くなくてはならない。

狸一家が持っていた強さ「絆」だった。
家族それぞれ弱みを持ちながら、それを補い合い強みを発揮していく。
襲い掛かってくる脅威には徹底抗戦するが、相手を滅ぼすまで追い詰めようとはしない。そういう鷹揚さが敵と味方の区別を溶かし、家族外へのネットワークも広げていく。

狸の生き方がなかなかカッコいい。

森見登美彦さんの作品らしく、京都の夜景に溶け込むようなファンタジー世界も素晴らしかった。また偽電気ブランが飲みたくなる。

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