宵山万華鏡
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あらすじ
祇園祭りの宵山を舞台とした幻想的な連作短編集。
宵山姉妹
バレエの練習に通う小学生の姉妹のお話。
宵山の日、姉妹はバレエ教室のあるビルの奥に不思議な提灯を見つけ、階段を上っていくと雑多な装飾が散らばる中、スイカのように大きな魚を見つけた。
教室の帰り道、好奇心の強い姉は祭り見学のため寄り道をする。慎重な妹は人込み迷子になることを怖れていたが、赤い浴衣を着た少女たちに見惚れた隙に姉とはぐれてしまう。
「上から見るお祭りが一番綺麗」だという赤い浴衣の少女たちに連れられ、妹は空に昇っていこうとしていた。
宵山金魚
藤田は、京都に住む高校時代の友人乙川の元を訪れ宵山の案内を頼んだ。
乙川は過去3回宵山の案内を断りはぐらかしていて、今回も藤田は乙川にまかれてしまう。
一人で歩いていた藤田は、「立ち入り禁止区域」に入り込んでしまい、祇園祭司令部に捕まる。粽を口に咥えさせられ籠に押し込められて、恐ろしい白塗りの大坊主の元に連れてこられる。大坊主は「宵山様にお灸を据えられる」という。
宵山劇場
以前大学で演劇の裏方をしていた小長井は「乙川に頼まれた」という友人経由で、宵山の夜に藤田という男を騙すための舞台装置を作り上げる。
小長井が演劇部にいた頃に彼を引っ張りまわし疲弊させた山田川も、そのプロジェクトに参加していた。
宵山回廊
宵山の日、千鶴は画廊の柳から「彼女の叔父である画家の河野に会いに行って欲しい」と伝えられる。
15年前の宵山の日、千鶴は河野の娘である従妹と一緒に祭りに訪れていた。そしてその日従妹は姿を消し、15年経っても行方不明のままだった。
叔父の河野は、しばらく会わない間に急激に老けた様子だった。
河野は「とある万華鏡を覗いて行方不明になった娘を見つけた。それ以来、宵山の日を繰り返すだけで抜け出せなくなってしまった」のだと言う。
宵山迷宮
画廊で働く柳は、古道具屋の乙川から「父の遺品の水晶玉を譲ってほしい」と頼まれる。母が蔵を探していたが水晶玉は見つからない。
やがて乙川も宵山に捉われ同じ一日を繰り返していることに気づく。
宵山万華鏡
再びバレエ教室に通う姉妹の話。今度は姉の視点。
祭りで赤い浴衣の少女たちを見かけた姉は、ふと意図的に妹の手を放してしまう。離れて妹を追いかけていた姉だがやがて見失ってしまった。
中で金魚が泳ぐ不思議な風船を見た姉は、それを妹に渡して謝りたいと考えた。風船を配っていたという白塗りの大坊主の所に行くが、もうなくなってしまったという。
姉は宵山様に頼むため、大坊主たちに連れられてビルの上を歩き回った。
感想・考察
幻想的な京都宵山の夜に引き込まれてしまう。
祭りの夜の幻惑的な雰囲気や、そこを過ぎ去ったときの寂しさを追体験させらるようだ。
「不思議は仕掛けられたもの」と見せつつ、やっぱり「不思議は不思議」と落としてくる構成も良くできている。
生きていく中で「にぎやかで楽しい、心地よい時間」にとどまり続けたいと感じることも多い。でも人はいつかそこを離れなければならない。固執し続けるといつか周囲も自分自身もゆがめてしまう。
「不思議は不思議、合理的に説明できないこともあるものだ」と考えて、心地よい時間を胸にしまいながら、明日へと一歩踏み出すことが必要なのだ。
そう感じさせてくれる話だった。