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午前零時のサンドリヨン

ありがとう。私の嘘を、見破ってくれて。『午前零時のサンドリヨン』

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あらすじ

バー『サンドリヨン』でマジシャンとして演じている女子高生の酉乃初が、マジシャンならではの観察眼で学校で起きた不思議な事件を解決していく。
彼女に一目ぼれした同級生の須永くんの視点で、酉乃の活躍と葛藤を描く。

空回りトライアンフ
須永くんは姉に連れられて行ったレストランバー『サンドリヨン』で、クラスメイトの酉乃初がマジシャンとして働いている場面に出会う。
学校では不愛想な酉乃がマジシャンとして演じるときに見せる笑顔に惹かれ、須永は彼女にひとめぼれする。

須永は、何とか酉乃と話しかける機会を作ろうとして彼女と一緒に図書室に向かった。そこである書架の雑誌が一冊を除きすべて逆向きになっていることを発見する。

図書委員の慶永は、同学年の委員に仕事を押し付けられいつも図書室にいたが、彼女に聞いてもどうしてそうなったのか分からなかった。

酉乃は「ひっくり返った雑誌」の謎を解いたが、それが人を傷つけることとなってしまう。
「余計なお世話」になってしまうことを覚悟しながら、酉乃は勇気を出して一歩前に進み出た。

胸中カード・スタッブ
酉乃は、図書館での事件から親しくなった慶永にマジックを披露し、図書委員の先輩である柏と瑠璃垣も一緒に楽しんだ。

帰り道でマジックに使ったナイフを忘れたことに気づき、須永と一緒にマジックをした音楽室まで取りに戻った。
そこで酉乃たちは、ナイフが机に突き刺さり3つの「f」が刻まれているのを見つける。音楽室でピアノの練習をしていた柏も、机に刻まれた文字を見ておびえた様子をみせる。

両親に経済的な負担をかけてまで音大に行くべきか戸惑っていた柏は、机の傷が自分へはメッセージだと言い、音大に行くのを諦めると言った。

酉乃は事件の真相を探っていく。

あてにならないプレディクタ
須永は職員室の落とし物置き場から手帳を受け取る際、自分のものではない手帳をうけとってしまい、そこに数人の生徒の名前と数字が書かれているのを見た。
その後、試験成績優秀者の発表があり、手帳に書かれた名前と数字は試験の成績であったことに気づく。

その手帳は試験が始まる前から落とし物置き場に鍵をかけて保管されていたはずなのに、なぜ試験の結果が書かれていたのか。

その手帳の落とし主として名乗り出た 飯倉は、学校内で有名な占い師だった。飯倉はその前の年に学校で自殺した藤井綾香の霊と交信し情報を得るのだという。

その頃学校では、藤井綾香の幽霊が出るという噂が広がっていた。須永も校内で幽霊のような人影をみて怯えてしまう。

酉乃は「幽霊の仕業ではない」といい、飯倉と話をすることを決意する。

あなたのためのワイルド・カード
藤井綾香の幽霊の噂は更に広がり、鍵がかかり入れないはずの屋上で女子生徒を見たという目撃談も数多く出てきた。
学校が運営するコミュニティーサイトでも、藤井綾香を騙る何者かがメッセージを残しているのが見つかった。

須永は酉乃の助けを求めるが、酉乃は飯倉との対決以降、マジックの力に自信を無くしてしまっていた。

感想・考察

相沢沙呼さんの『Medium』が面白かったので、初期作品である本作を再読してみた。

『Medium』は「すべてが伏線」という謳い文句通り何重にも仕掛けられた罠に驚愕したが、本作も伏線の巧みさや連作短編としての構成の上手さに驚かされた。

ミステリとしての完成度が高いだけでなく、登場人物たちがそれぞれ魅力的で、読んでいて心地がいい。その上でストーリーを通して熱いメッセージを感じる。

自分の繭から出ることを怖れる少年少女たちに「余計なお世話かもしれないし、傷つくかもしれない。それでも何も表現しなければ何もないのと同じ。勇気を出して一歩踏み出そう」と伝えている。
これは相沢沙呼さんの作品で再三取り上げられる中心的なテーマの一つなのだろう。

マジシャン酉乃初が登場する続編は『ロートケプシェン、こっちにおいで』以降でていないようだが、大好きなシリーズなので続きが出てくれると嬉しい。

占い師や手品師が罠を巡らせ相手と戦う『Medium』が、ある意味で後継的な作品なのかもしれないが。

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