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小説の神様 わたしたちの物語 小説の神様アンソロジー

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あらすじ

「小説を愛する人たち」の物語を集めたアンソロジー。
相沢沙呼さんの「小説の神様」「小説の神様 あなたを読む物語」がベースになっているので、ぜひともそちらを読んでから本作を手に取ることをお勧めします。

「イカロス」 降田 天

八島しほりは、大学入学直前に新人賞を取って小説家としてデビューした。だが編集者の要求を受け入れ売りやすさを狙って内容を変えるうち、自分の物語を愛せないようになってしまう。

中条花実は高校時代にしほりの小説を読み、素晴らしさを認め「やりたいことをやりたい」という気持ちにさせてくれた友人だった。
だが、しほりがスランプに陥ったとき心配して訪れた花実に辛辣な言葉を投げかけてしまい、二人は疎遠になってしまう。

しほりが「次回作を急いで書く必要はない」と出版社からの事実上のクビ宣告を受けた日、花実から結婚式の招待状が届いた。

「掌のいとしい他人たち」 櫻いいよ

蛯名貴教は書店でバイトしていながら本を全く読まない。

貴教は、小学校時代には小説の面白さを知って本を読み漁り、中学時代にはSNSに書評を上げて評判になった。高校時代には自分でも小説を書き始めたが認められず、自分の作品より劣っていると思える小説が賞を取り売れているのを見て鬱屈していった。
そんな頃、他人の作品をSNSで中傷して炎上させてしまう。「俺は本を貶めてしまう」と考え、貴教は本を読むことを止めてしまった。

書店で一緒に働く林藤明日香は「本を読むのは自由だ。なにを選んでもいいし、どう感じてもいい。これだけいろんなものがあるなら、好きなものもあるし、嫌いなものもあって当たり前」だと言って、貴教に再び読書を勧めた。

「モモちゃん」 芹沢政信

女子高生の「わたし」は、小説投稿を繰り返すが一次選考を通過することができず落ち込んでいた。
そんな時、作業場所としていた学校の図書館で「モモちゃん」に出会う。彼女は自分の書いた小説を「わたし」に読んで評価して欲しいといった。

あり得ない場所から現れ消えていったモモちゃんは幽霊だった。

モモちゃんは「わたし」が図書室に投げ捨ててきた原稿を枕元まで持ってきて評価をせがむ。観念した「わたし」はその小説を読み、あまりにも破天荒な内容ながら、書いている楽しさが伝わってくる作品だと感じる。

やがて「わたし」は、モモちゃんの書いた小説の世界に取り込まれてしまう。

「神様への扉」 手名町紗帆

「小説の神様」をコミカライズした手名町紗帆さんのマンガ作品。
小説を読むのが好きだが恥ずかしくて公言できない成瀬秋乃が、文芸部に入部するまでを描く。「小説の神様」本編の前日譚。

「僕と”文学少女”な訪問者と三つの伏線」 野村美月

「小説の神様」の主人公、千谷一也と小余綾̪詩凪が登場する。

千谷が小説の断片を書いたノートを忘れて取りに行ったところ、美しい大人の女性が彼のノートを読んでいた。小余綾̪への思いを綴ったノートを音読されダメージを受ける千谷。自らを「文学少女」というが彼女は「また会いましょう。今度は三人で」と言って去っていった。

文芸部の成瀬秋乃は自宅の書店で店番をしていた。
以前、万引きをした男がまた来店し本をトートバッグに放り込むのを見た。咎めようと思ったが、他の客がレジに来たためとタイミングを逸してしまう。
そのとき、自らを「文学少女」と呼ぶ女性は、男がカバンに入れた本の内容を興奮気味に語り、他のオススメ作品も紹介して引き留めた。
結局男は万引きすることはできず、他の本も含めてお金を払って買っていった。

「神の両目は地べたで解けてる」 斜線堂有紀

高校生の舞立が「水浦しず」の小説を読んでいると、水浦の熱烈なファンである岬布奈子が絡んできた。
図書室で借りた本だと知ると書店まで連行して無理やり本を買わせ、レビューをSNSに上げることも強要する。

水浦の小説を読んだ舞立はその素晴らしさに心を打たれた。だがネットで情報を検索するうち、その作風が人気作家 不動詩凪 と酷似していることを知る。

岬は「不動詩凪は実力があり、美人女子高生という強みもあって、その才能はたくさんの人の目に触れている」けれども「実力があるのに埋もれている水浦しずは、その素晴らしさを発見した私たちが陽の当たる場所へ連れていかなければならない」と言った。

岬はSNSで水浦を貶す相手に暴言を吐き、アカウントを凍結されてしまう。彼女「自分は好きな作家一人を救うこともできない」と落ち込んでしまう。

舞立は、自分が良いと思うものを良いと言い続ける岬に感化され、自分にできることを考え行動をとり始めた。

「神様の探索」 相沢沙呼

「小説の神様」の舞台裏で小余綾と千谷を引き合わせた編集者のお話。

河埜絢子は、中学時代から才能を発揮していた小余綾詩凪を担当する編集者だった。小余綾は 不動詩凪というペンネームで活躍しヒット作を連発する。

河埜は小余綾の美貌も意図的に露出させて売り込んでいったが、ストーカ化した熱烈なファンが学校にまで押し掛けるようになり、小余綾はストレスのため文字を書くことができなくなってしまう。

小余綾と同世代の高校生作家である 千谷一夜は、自分の作品の売れ行きの悪さに悩み、売筋となる要素に気を取られ、ストーリーを作ることができなくなっていた。

河埜は、偶然同じ高校に通うことになった小余綾と千谷が協力して合作させることを思いつく。

「『小説の神様』の作り方-あるいは、小説家Aと小説家Bについて」紅玉いづき

相沢沙呼さんだと思われる「小説家A」と、紅玉いづきさんだと思われる「小説家B」の交流を描く。「小説の神様」という話が生まれるまでの経緯が書かれている。

感想・考察

作家だったり、読者だったり、書店員だったり、編集者だったり、小説を愛する人たちの話。

櫻いいよさんの短編にあった「本を読むのは自由だ」という言葉の通り、立場や状況によって、どんな作品もいろいろな受け取られ方をする。どれが正解ということはない。

このアンソロジーをみても、それぞれの作者が「小説の神様」というテーマをそれぞれの解釈で受け止めている。
小説を愛する心、自分の中の想像力、良い作品を陽の当たる場所に押し上げたいという思い、擬人化された文学少女など、それぞれの作品で「小説の神様」は異なる姿をしている。

「小説の神様」というたった一言でもこれだけの広がりが生まれるのだ。小説は作者の思いや、出版流通に関わる人たちの努力や、読者の感受性によって無限に広がる可能性がある。だから面白い。

複数作家のアンソロジーならではの多様性が感じられた。
こういう企画ものも面白い。

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