BookLetでは、ビジネス書や小説の1000文字程度のオリジナルレビューを掲載しています。

ちびねこ亭の思い出ごはん~黒猫と初恋サンドイッチ~

こちらで購入可能

あらすじ

一度だけ、限られた時間だけ、亡くなった大切な人の声を聴くことができる、猫のいる定食屋「ちびねこ亭」で繰り広げられる物語。

茶ぶち猫とアイナメの煮付け
二木琴子は交通事故で兄を亡くす。役者として成功し始めた兄が自分をかばって死んでしまったことを申し訳なく思い、生きる気力を失いかけていた。

琴子は兄が所属していた劇団の人から、死者に巡り合えるという「ちびねこ亭」の話を聞き訪れた。

「ちびねこ亭」で働く福地櫂は、琴子にアイナメの煮付けを差し出した。兄との思い出が詰まった料理が出てきたことに琴子は驚きを隠せない。

黒猫と初恋サンドイッチ
小学五年生の橋本泰示は通っていた塾で中里文香という同学年の女子と出会う。

塾の休み時間、泰示は公園で昼食を取る文香と一緒になり、彼女からたまごサンドをもらった。泰示はお返しにクッキーを差し出したが文香から断られ、落ち込んでしまった。

公園で泰示が文香と一緒にいるのを見た塾生徒からからかわれ、泰示は思わず「文香なんて、ぶっちゃけ嫌いだよ」と言ってしまう。その言葉を聞いていた文香は次回から塾に姿を現さず、そのまま塾をやめてしまった。

六年生に進級したころ、泰示は文香が死んでしまったことを知る。
病弱で学校に通えなかった文香は塾で友達を作ることを期待していたという。

後悔の念に苛まれる泰示は、二木琴子から「ちびねこ亭」の噂を聞いた。

サバ白猫と落花生ごはん
琴子は「ちびねこ亭」のブログを読み「思いでご飯」は福地櫂の母が帰らぬ夫の無事を祈り始めたものだと知る。
彼女は病気で入院していること、その間は息子の櫂が店を切り盛りしていることが分かったが、最近数週間はブログの更新が止まっていることに気づく。

急いで「ちびねこ亭」に向かった琴子は、櫂の母親が亡くなったことを知り、櫂が店を閉めようとしていることを聞いた。

櫂は、母親が病院で出会った男に、最後の「思い出ごはん」を作りに行く。

ちびねこと定食屋のまかない飯
母を亡くし「ちびねこ亭」を続ける意味を失った櫂は四十九日を待って町から出ていこうとしていた。

そんな櫂のもとに琴子が再び訪れ、かつて母が作っていたまかない飯を櫂に振る舞う。

感想・考察

同じ作者さんの『あなたの思い出紡ぎます 霧の向こうの裁縫店』が面白かったのでこちらの作品も読んでみた。
やっぱり優しさに溢れたお話で、また泣かされてしまった。。

においや味というのは、ダイレクトに記憶に繋がる感じがある。
いつか食べたことのある味やにおいが、忘れていた昔の記憶を引き出してくれる経験も多く「思い出ごはん」が、大切な人の記憶を呼び覚ますのもリアルに感じる。


よく読むと戻ってきた死者が見えるのは「思い出ごはん」を食べた人の主観視点だけで、料理を作っている櫂や七美には見えていない。その人にとって思い出の鍵となる料理が準備されていることも、合理的に説明できるようになっている。

額面通り「実際に死者の霊が戻ってきている」という解釈もできるし、オカルト要素を排して「思い出ごはんは本人が記憶を呼び戻すきっかけになっているだけ」だと捉えることもできるだろう。

少なくとも最初の話の段階で、櫂は後者の解釈に近かったようにみえる。

だが櫂は、琴子から「兄が自分に役者として舞台に立って欲しいと言ったのはなぜか」と問われたとき、「お兄さんは琴子の中にいて、もう一度舞台に立ちたいと思っている」のだろうと答えた。

櫂が、琴子の心の中で作り上げられた話だと考えたのなら、兄の言葉は「もう一度動き出したい琴子自身の思いを代弁」しているのだと思うだろう。
でも櫂はそうは言わず「琴子が動くことがお兄さんのためになる」と伝えた。
立ち止まってしまった琴子の背中を押す優しさに溢れた言葉だ。

「思い出ごはん」がフックとなって呼び覚ます記憶と、櫂の深い優しさがセットになって人を動かすのが「ちびねこ亭」なのだろう。

そんな櫂の優しさを受けた琴子が、今度は傷心の少年を救う手助けをし、死を目の前にした男を救う。そして最後には櫂自身へと返っていく。
優しさの広がりと連鎖に、心が温かくなる。

こちらで購入可能