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作ってあげたい小江戸ごはん たぬき食堂、はじめました!

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あらすじ

小江戸川越の「たぬき食堂」を舞台にした5つの短編集。
温かい人のつながりと、心と体を癒す優しいごはんの物語です。

  • 霜降月の泡雪-つんつん玉子

信樂大地は銀座にある洋食屋でコック見習いをしていた。だが大地には「厚焼き玉子」へのトラウマがあり、それが原因となり洋食屋から逃げ出してしまった。

大地は地元の川越に戻り、父の営む信樂食堂を手伝っていた。信樂食堂は、店の前に置かれたたぬきの置物から「たぬき食堂」とも呼ばれていた。

ある時、父が倒れ入院してしまい、大地が店を取り仕切ることになる。
当初は大地の料理は受け入れられず、徐々に客足が遠のいていた。

そんなある日、「たまき」と名乗り古風な言葉遣いをする、黒髪に丸顔の可愛い系美人が食堂に訪れ、雇って欲しいという。

経営に余裕がない大地は断ろうとするが、たまきは客を呼び込み、彼らを満足させる料理を作ると大見得を切った。

  • 六出花の朝―つるつる豆腐

信樂食堂を支えてくれていた豆腐屋の主人が「息子が家業を継いでくれない」と相談を持ち掛けてきた。
息子の方に話を聞くと、彼も自分たちの作る豆腐を愛し強い誇りを持っていた。
大地と たまき が、父と息子の思いを繋ぐ。

  • 探梅行-ほっこり山おやつ

信樂食堂の常連客から「最近、中学生の娘が冷たい」と相談を受ける。
娘から話を聞き、彼女の父への思いを知った大地と たまき が二人の間を取り持つ。

  • 梅擬-じゃない尽くし

信樂食堂は60人分の法事の仕出弁当の注文を受ける。
大地には大量の仕出弁当を作った経験もなく、また肉や魚を使わない「精進料理」で、皆が満足いくものを作る自信もなく断ろうとしたが、病院から一時退院していた父が「仕事のえり好みをしている状況ではない」と引き受けてしまう。
大地はたまきと一緒に、アイデアを絞り出していった。

  • 寒卵-おもいで厚焼き玉子

大地が「厚焼き玉子」にトラウマを抱えてしまった20年前のエピソードの真相を父が伝える。

感想

登場人物それぞれの優しさや真摯さが好きだし、素朴だけど思いのこもった料理はどれも美味しそう。たぬき顔好きとして、たまきのキャラクタも素晴らしい。魅力の詰まった作品だ。

その中でも、特に自分に響いたのはこのフレーズ。
『信樂食堂は、大地が修行していた洋食屋とは比べようもないくらい小さな店だ。客も少ないし「たぬき食堂」なんて呼ばれている、冴えない町の飯屋だ。
でも、小さな定食屋だからできることがある。客一人一人の顔を見ながら、料理を作ることができる。ありがとうの言葉を聞くこともできる。
料理人として、人として、こんなに幸せなことはないだろう』

仕事はどんどん専門化し細分化していて、自分のやっていることが誰かの役に立っているとイメージできない。
仕事を苦痛に感じる人が多いのも当然だと思う。

実際には、大量生産の豆腐だってセントラルキッチンのファミレスだって、誰かの役に立っているし誰かを幸せにしている。
逆に、相手と対面していても、単に「捌く」ような仕事をしていれば、つながりを感じることはできない。

たぬき食堂の物語には「ごはんを作ってくれる家族や、サービスを提供してくれる店の人に感謝を伝えたい」と思わされるし、「たとえ遠くても、真摯に取り組むことは誰かを幸せにしている」と感じられる力がある。

優しく勇気づけてくれるこの物語にも感謝したい。

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