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鈍感な世界に生きる 敏感な人たち

鈍感な世界に生きる 敏感な人たち

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要約

HSPとは

5人に1人はHSP(Highly Sensitive Person=とても敏感な人)で、外界の刺激に影響を受けやすい。
HSPは一般に控えめで物静かなので、外向的でタフなタイプが作った基準で評価されないことが多いが、環境が整えば繊細な感受性や創造性を発揮することができる。

HSPの特徴

HSPの特徴には以下のようなものがある。

①多くの情報を吸収できる
見たもの、聞いたものから多くを感受することができる。一方でキャパオーバーに陥りやすいのでコントロールが不可欠。

②音やにおいなどの微妙な違いを察知できる
音や匂いに敏感。大きな音や強い匂いには疲れてしまう。

③多角的に考えられる
一つのことをじっくり多角的に考えることができる。即断即決には向かないが、物事の新たな側面を見出すこともある。

④危機管理能力が高い
慎重で行動を起こす前にじっくり見定めるため、危機管理能力は高い。一方で常に不安を抱えてしまうことも多い。

⑤共感力が高い
他人の気持ちを察知するの得意で気配り上手になりやすい。半面、人のマイナスの感情を受け止めやすくストレスを感じやすい。

⑥責任感がある
相手のマイナス感情を怖れるため、責任をもってやり遂げようとする。すべての問題を自分の責任だと感じ抱え込んでしまうこともあり、キャパを超えると無責任に放り出してしまうこともある。

⑦想像力豊か
生き生きとした空想力を持つ人が多い。一人でいても退屈を感じることはなく創造的な作業に向いている。

HSPが抱えやすい問題

①自分ルールに縛られる
自尊心が低く「完全な自分でないと愛されない」と感じているため、自分で定めた基準を死守しようとする。
基準を下げるには勇気がいるが、思い切ってさらけ出し「完璧でなくても受け入れられる」ことを感じられると、人間関係の壁を超えることができる。

②罪悪感と羞恥心に苛まれやすい
自分の行為に対する罪悪感、自分の在り方に対する羞恥心を感じやすい。自分が影響を及ぼせる範囲を超えて罪悪感を感じる必要はない。恥に感じることを口に出してみると羞恥心は消えていく。

③恐怖心を感じやすい
恐怖心は安全装置として必要だが、強すぎると行動を起こすせなくなる。ハードルを下げ少しでも行動したという成功体験が次の行動を誘発していく。
恐怖の真因を把握することも重要。
例えば「人と会うのが怖い」のは人と会う機会が少ないからではなく、他人から受ける刺激がオーバーフローしてしまうことが真の原意だとすると、知らない人と合う練習を重ねることに意味はなくただ疲弊してしまうだけだ。会合に参加する時間を制限するなど自分でコントロールできれば恐怖心は薄らぐ。

④怒りを放出できない
HSPは怒りを表現するのが苦手。
「大したことではない」と自分の内側におさめてしまうのは安易だが、長期的な関係構築には望ましくない。
無理に相手に怒りをぶつける必要はない。「○○だから私は××と感じている」と冷静に説明することでも気持ちは伝わる。
「○○すべき」と「道徳・正義」にしてしまうと怒りに転嫁しやすい。「○○であればいいな」という「願い」と捉え、相手に伝えていく。

鈍感な人たちと付き合う方法

自分がHSPであることを周囲に伝え、できることに限界があると理解してもらうことが必要。パーティーなどが長時間続くとオーバーフローしてしまうことを伝え、散会する時間を決めておくような準備ができると良い。

HSPは会話でも疲れてしまう。会話中に休憩を取ることも必要。
相手の話を受け止めシンパシーを感じるため、ひたすら話しまくる人にエネルギーを使い切ってしまう。お互いの話に反応しあうような「対話」にすることが大切。

会話の「深さ」を主体的にコントロールする技術もある。
「沈黙」は会話を深くする。また「具体的に言うと」というリクエストで話を深めることもできる。逆に個人的な部分に深入りされたくなければ、話を一般化すると深くなるのを避けることができる。

HSPの人はHSPに理解ある人をパートナーに選ぶべき。子育てなども自分に限界があることを認識したうえで、厳戒の中でできる方法を考えていくべき。

敏感な自分と付き合う方法

HSPとしての能力を楽しむ機会を作るように意識する。
入ってくる刺激をコントロールしながら、自然や、音楽、美術などを楽しんだり、創造的な作業に没頭したりすることで、感受性の高さを味わうことができる。
過度な刺激を受けたときには、静かに座って何もしない時間を持つ。

自分自身を受け入れ愛することが不可欠。

感想・考察

人の性格はゼロイチのデジタルではなく、アナログに分布する程度問題だ。
外部環境や自身の体調、相手との人間関係など、様々な要素も相互に影響を与える。

特定の反応が強化されて作られる「傾向」はあるが、性格とは本来アナログな多層構造になっている。

「人と一緒にいると疲れる」だとか「音やにおいに敏感なときがある」という質問で、相手の性格を規定してしまうのは危うい。バーナム効果によるラベリングは人を固定してしまいかねない。

一方で「こういう状況に陥ったときは、こういう対応を取ると良い」という個別具体的なアドバイスとして、あるいは「世の中にはこのような感じている人もいる」という実例集として読む分には、本書は意義深いと思う。

読者に「こんな苦しさを感じている自分は決して特別ではない」という救いを与えられるなら、本当に有益な本だと言えるだろう。


ただ私自身としては、「人といると疲れて、一人でいるのが好きで、うるさいところは苦手で、多くのことをいっぺんに処理できず、自然の美しさに涙するような感受性があり、自分ルールを守ることに必死で、動き出すことに不安を感じ、怒りを表現するのが苦手」な自分を「HSP」と規定したくはない。

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