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十三番目の人格 ISOLA

十三番目の人格 ISOLA

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あらすじ

賀茂由香里は他人の強い感情をみることができる「エンパシー」能力を持っていた。それを活かしてカウンセラーのような仕事をしている。

阪神大震災の被害をみて長期休暇をとってボランティアに訪れ、エンパシー能力を活かして被災者の心のケアに取り組んでいた。
由香里は他のボランティアからコミュニケーションを取りにくいと評されていた 入院中の森谷千尋と会う。由香里は千尋と話すうち、彼女が多重人格であることに気づいた。

やがて由香里は、千尋の中に以前からいた12人の人格に加え、震災後「ISOLA」と名乗る新しい人格が彼女の中に入り込んだことを知る。その時点で「ISOLA」は満足な会話もできなかったが、他の人格とは明らかに異質な存在だった。

由香里は千尋学校の臨床心理士 野村浩子と一緒に、千尋の人格を統合させるセラピーに取り組んでいた。
千尋の中の人格は、実父の遺品である漢字辞典を参考に名前と性格が決められていたが、ISOLAだけは当てはまらない。もう一冊の遺品であった「雨月物語」に出てくる復讐の怨霊「磯良」から採ったのだと思われた。

千尋へのセラピーは順調に進んでいたが、ある日千尋の義父が現れ、無理やり病院から連れ去ってしまう。
千尋が義父からの虐待を受けていることに気づいていた由香里は抵抗したが、結局彼女は家に連れ去られてしまった。
ところが数日後、千尋の義父が「心臓マヒ」で急死したとの連絡が入る。あまりにもタイミングの良い死に疑念を抱いたが、警察は不審なところはない自然死だと判断していた。

由香里は一カ月の神戸滞在を終え東京に戻った。当初は浩子から治療の経過の連絡が来ていたが、徐々に途絶えてしまう。気になった由香里は再び神戸を訪れた。

千尋の通う学校で話を聞くと、千尋と衝突した体育教師、千尋をイジメていた生徒2人が相次いで「心臓マヒ」で急死し「千尋の呪い」だと噂されているという。

そそて由香里は「ISOLA」の邪悪な感情との対決していく。

感想・考察

前半は多くの人格を内側に持つ 森谷千尋 と、相手の感情をみることができる 賀茂由香里が対峙する様子が緻密に描かれている。

後半に入ってオカルト色が強くなり、恐怖を煽る展開になっていく。最後は完全にブラックホラーな終わり方だった。

本作で「ISOLA」を怖いと感じるのは「防御手段がないこと」が理由だろう。「見つけられたら終わりでただ逃げるしかない」こういう状態が一番怖い。
ホラーゲームとかでも、対抗手段を手に入れる中盤以降よりただ逃げる序盤の方が怖かったりする。

本作のラストに感じた恐ろしさも本質的には同じだと思う。
敵意をむき出しにした相手であれば対抗可能だが、にこやかな隣人の中にある悪意は予測不可能で防御不可能だ。
感情を動かさずに攻撃してくるサイコパス的な人間は、幽霊などと同じで「防御不能」な恐ろしさがある。

自己開示による親しみやすさと、予測不可能性による恐怖感を意図的に使い分ける人間は本当に恐ろしい。

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