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ビッグ・クエスチョン 〈人類の難問〉に答えよう

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要約

人はいつの時代も「私たちはどこから来たのか?」「宇宙にはどんな意味と設計が隠されているのだろうか?」といった、ビッグ・クエスチョンを問うてきた。

ホーキング氏は、増え続ける人口への食料供給、再生可能なエネルギー、気候変動のペースを落とすことなどの課題に対し、科学とテクノロジーが答えを与えてくれることを信じている。そのためにも、世界中すべての人が知識に貪欲になり、確固たる意志を持つことを望み、メッセージを残した。

  • 神は存在するのか?

多くの宗教は宇宙の起源に神が関わっているとするが、ホーキング氏は「神」という言葉を、人格を持たない自然法則という意味で使っている。

宇宙を構成するのは「物質=エネルギー」と「空間」だ。物質など正のエネルギーに対し、空間そのものが負のエネルギーの貯蔵庫であり、合計するとゼロだという。宇宙はゼロから生まれることはできたと考えられる。

ゼロから宇宙が生まれたのであれば、その引き金を引いたのが「神」であるといえるかもしれない。だがエネルギーも空間もないゼロであれば時間は存在せず、因果関係を求めること自体が無意味だ。

ホーキング氏は「神は存在しない」というのが一番簡単な説明だと考えている。

  • 宇宙はどのように始まったのか?

20世紀半ばには、宇宙が膨張していることが観測され、無限の過去から存在し不変だったと考える「定常宇宙論」は否定された。

およそ150億年前には、宇宙は無限の密度を持つ一点だったと考えれれており、その特異点では一般相対性理論も適用されない。

宇宙の境界条件には無限の可能性があり、その中で「なぜこのような宇宙になったのか」という疑問が残るが、逆に「観測者としての人間が存在している」という事実自体が制約条件になっているとする「人間原理」という考え方もある。
宇宙には膨大な数の歴史があってよいが、少しでも物理法則が異なると、知的生命が進化するのには適さない。宇宙の寿命が短かったり、空間の曲率が多きすがたりして、生命を育むことができない。

例えばこの宇宙で3つの次元だけが展開されていることも「人間原理」で理解できる。二次元の世界であれば腸管などの器官が存在することができない。一方、四次元であれば、重力は距離の逆3乗となり、惑星が恒星の周りをまわる軌道もも、原子内部の電子の軌道も安定しない。「人間が存在するのだから、人間にとって具合の良い三次元だった」ということだ。

  • 宇宙には人間のほかにも知的生命が存在するのか?

「人間原理」に基づくなら、この宇宙では適切な条件下で自発的に生命が生じる確率は十分に高いと考えられる。

地球人が地球外の知的生命と今まで出会ってない理由はいくつか考えれる。
「実は生命発生の確率は非常に低い」のかもしれず、「知性は生存競争において有利とはいえず、知性を進化させることは極めて特異」なのかもしれない。
平均すると2000万年に一度くらいは小惑星の衝突などで環境が破壊されるが、地球でここ6000万年以上衝突が起こっていないのが特別に幸運なのかもしれない。
あるいは、悲観的な見方として、知性を向上させた生命は戦争などで自滅するのが一般的なのかもしれない。

  • 未来を予言することはできるのか?

ラプラスは19世紀初頭に、物理法則が不変である以上、初期条件がすべて明確に入力されれば、すべてのことは予測可能だと考えた。実際には初期条件は膨大で様々なことが複雑に総合影響するので難易度は高いが、原理的には可能だと考えられてきた。

だが20世紀に入り量子力学が発展し、ハイゼンベルクは粒子の位置と速度を同時に確定することはできないとする「不確定性原理」を主張し、結果は確率論としてしか知りえないことを説いた。

  • ブラックホールの内部には何があるのか?

太陽などの恒星は、内部からの重力と核エネルギーによる圧がバランスを取っているが、核エネルギーを使い果たした後は重力により内側に崩壊してしまう。
重力崩壊後は星の規模によって、白色矮星、中性子星、ブラックホールになっていく。

ブラックホールの内部には「事象の地平」と呼ばれる境界面があり、そこを超えると最も速い光も脱出できない。

だがブラックホールから一定のペースで粒子が放出されることが観測された。これは通常は対消滅してしまう「粒子・反粒子」の一方がブラックホールに飲まれることで残った粒子が放出されているように見えているのだと考えられている。

ブラックホールに落下したものはすべての情報を失てしまうように見え、これは科学的決定論を揺るがす一つの根拠となる。だが、近年ブラックホールの事象地平に落下したものの情報が蓄積しているという考え方も主張されている。

  • タイムトラベルは可能なのか?

一般相対性理論によれば、光の速度であれば時間は停止し、それ以上であれば時間は遡る。だが物質を光の速さで動かすのに必要なエネルギーは「無限」で、実現不可能だ。

強いエネルギーは空間を歪めるので、大きく時空を歪曲させることができれば、ワープのような移動や、過去へのタイムトラベルも可能かもしれない。

  • 人間は地球で生きていくべきなのか?

政情不安、物質的資源の枯渇、気候変動などの壊滅的な問題が表面化している。
地球がここ6000万年以上、大規模な小惑星・彗星と衝突していないのは後年でしかない。核兵器の拡散により核戦争の危機は高まっていると考えられる。

ホーキング氏は、今のところは地球上で問題を解決していくしかないが、長期的には地球から逃げ出す方法を見つけるべきだという。

  • 宇宙に植民地を建設するべきなのか?

数百年から数千年というタイムスケールで考えれば、人類が地球外にも出ていく必要があると考える。

最も近いのは月、次に可能性があるのは火星。地球より内側の惑星は暑すぎるし、木星や土星は地表を持たないガス状の天体なので居住には適さない。

太陽系外の惑星では一番近いものでも 4.5光年ほど離れており、現状では人間の寿命が続く間に辿り着くことはできない。光の速度の十分の一程度まで加速できるライトセイルなどの技術が実現されることを期待する。

  • 人工知能は人間より賢くなるのか?

AIの性能が上がり加速的に自らを再設計できるようになると、生物としての制約を持つ人間は、AIが進歩する速度に追いつくことができなくなる可能性がある。

AIの目標達成能力は素晴らしく高いけれど、それが人間の目標と合わなければ、大きなリスクとなりえると、ホーキング氏は考える。
リスクを認識し、どのようなAIにするのかを確実に人間が計画する必要があると主張する。

  • より良い未来のために何ができるのか?

現代の社会には、物質的資源の枯渇、気候変動、指数関数的な人口増加、核戦争の危機など、多くの課題が山積している。

人類の未来のためにできることは「人類が生きていくのに適した星を見つけること」と「地球をより良いものにするため人工知能を活用すること」であるという。

そのためにはすべての人が科学に親しみ、リテラシーを持つべきだとまとめている。

感想・考察

科学にまつわる「ビッグ・クエスチョン」について、数式などを使わず分かりやすく解説してくれている。
(ホーキング氏の専門分野であるブラックホール関連の話などはかなり高度で、数式が無くてもついていくのが難しいけれど。。)

地球外での植民の可能性や、AIが人間を脅かす危険性など、ホーキング氏は「科学の可能性」を、極めて高く評価していることが分かる。

現状をみると、準光速で移動する宇宙船や、ターミネーターを生んだようなAI はとても遠くに感じるが、現状の枠組みを超えて夢を見ているから、進歩を引っ張っていくことができるのだろう。


すべての人が科学的リテラシーを持つべきという主張にも同意したい。
ただ、人間心理を置き去りにしてはいけないとも思う。
「宇宙や生命のの起源にインテリジェント・デザインは無くても可能」という理論はよく理解できたが、それで「神は存在しないとするのが一番簡単な説明だ」というのは乱暴かもしれない。神は科学より信仰のための存在で、自分の外側に確固たる正しさを必要とする人間もいるだろうから。

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