ZOO 1
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あらすじ
ホラーやミステリ、SFなどの要素が入り混じった5つの短編集。
- カザリとヨーコ
カザリとヨーコは一卵性の双子だったが、母親は妹のカザリだけを愛し、ヨーコを徹底的に冷遇してきた。
ヨーコは「あなたが悪い子だから」といって母親から暴力を受け続ける。十分な食事も与えられず、カザリの食べ残しを食べてかろうじて命を繋いでいた。
ある日、ヨーコが迷い犬を飼い主の老婦人スズキさんに届けた。スズキさんはヨーコに食べ物を与え、話し相手となった。ヨーコは生まれて初めて幸福を知る。
ヨーコが鈴木さんから借りた本が母親に見つかり取り上げられる。
その本に挟まっていたスズキさん宅の鍵を取り返そうと、母の不在中に部屋に入ったとき、事件が起きた。
- SEVEN ROOMS
10歳の少年は中学生の姉とともに監禁されていた。
閉ざされた部屋で、一日に一度パンと水だけがドアの隙間から供される。
中央には汚水の流れる浅い溝があり、身体の小さな少年は汚水を抜けて隣室に行くことができた。
少年たちが監禁されているのと同じ作りの部屋が7つ並んでおり、上流側の3部屋にはそれぞれ1人の女性が監禁されていた。
少年たちの部屋の下流側の隣にも一人の女性が閉じ込められていたが、その隣には誰もいなかった。最下流の7番目の部屋にいた女性は「毎日死体が溝を流れてくる」と言って怯えていた。
少年と姉は、それぞれの部屋で聞いた話から自分たちの置かれている状況を推理した。
- SO-far そ・ふぁー
幼稚園に通っていた頃、「ぼく」は父と母との三人暮らしだった。両親に挟まれソファーに座っている時間が大好きだった。
ところがある日から、父には母が見えなくなり、母には父が見えなくなった。父は「母は事故で亡くなった」という、母は「父が事故で亡くなった」という。
ぼくには二人が見えているのに、両親にはお互いが見えていないようだった。
「ぼくには二人が見えている」という話を最初両親は信じなかったが、父しか知らないはずこと、母しか知らないはずことを、ぼくが言い当てるうちに、両親もお互いの存在を意識し始める。
ぼくは、二人の会話を伝える連絡係であることにも喜びを感じていた。
だがある日、両親がぼくを通してケンカをしたときから、ぼくにも二人を同時に感じることができなくなってしまう。
二つの世界が乖離し始め、父といる世界か母といる世界のどちらかを選ばなくてはならない。
- 陽だまりの詩(シ)
私は彼の手によって、人間に似せて作られた。
ほとんどの人間が空気感染する病原菌で死に絶えていた。彼は「僕が死んだときその体を墓に埋葬してもらうため」私を作ったのだという。
私は彼に名前を付けて欲しいと願ったが、彼は「必要ないだろう」といった。
私は鳥の死骸を見つけ、分解されて肥料となると考え死骸を森に放り投げた。それを見た彼は「ぼくを正しく理解するため、きみには『死』を学んでほしい」という。
- ZOO
男の家に毎日のように死体の写真が送られてくる。
彼は写真を繋ぎ合わせて動画にし、徐々に崩壊していく彼女の変化を見た。
彼女は男が初めて付き合った女性だった。
ある日彼女は急に失踪したが、警察は家出だと考え本腰を入れた捜査はせず、家族もそれを受け入れていた。
だが男は、写真を撮影している人間が彼女を殺した犯人であると知っている。
男は「犯人を探し出し、罪を償わせる」ことを誓った。
警察には写真のことは知らせず、警察の力を借りずに恋人の仇を討とうとする自分に酔った。
感想
乙一さんの作品では「精神的あるいは身体的な欠損」が生むドラマが描かれることが多い。『暗いところで待ち合わせ』の目の見えない女性だったり、心の痛みを感じられなくなった『死にぞこないの青』だったり。
「カザリとヨーコ」は息苦しくなるような話だった。
愛を受けることなく育った少女は「世界はこういうものだ」と認識している。愛し愛されることを知らないヨーコが主人公だ。
でも、ヨーコが生まれて初めて愛されることを知ったとき「生きよう」という意志が現れ、生きるために足掻くことを学ぶ。
「陽だまりの詩」は本書で一番好きな話だ。これも「心」の欠損を描く物語だ。
彼に作られた「私」は、模倣し最適解を探すことはできるが、自分で何かを作り出すことはできない。自発的に何かを感じる心を持たない。
それでも彼は、私が「死について学ぶ」ことができると確信している。最後に私は、死の恐怖とは「機能停止」の怖さではなく「喪失感」であると知り、死の怖さとは、より深く生きたことの裏返しであると理解して、彼の死を受け止める。
救いがなかったり、グロい描写だったり、正直読んでいて気分の良くない話が多かったが、それでも心に残る物語だった。
ZOO2の方も読んでみよう。