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星やどりの声

星やどりの声

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あらすじ

建築家として働いていた早坂家の父星則は、数年前に他界している。なくなる数年前には古い物件をリフォームして「星やどり」という喫茶店として開いていた。父が亡くなってからは母の律子が「星やどり」を切り盛りしていた。
「星やどり」を舞台に、早坂家の家族それぞれが葛藤しながら生きる道を探していく。


長男 光彦
光彦は大学4年の7月になっても就職が決まらず苦戦していた。
自分を偽るような就職活動に疲れ果て、何ごとも要領よくこなす友人に嫉妬する自分自身を嫌悪する。
「亡くなった父親がどれだけすごかったか、自分がどれだけ情けない人間か」に思い悩み、家庭教師の教え子あおいにも苦しい思いを吐露する。


三男 真歩
真歩がまだ母親のお腹にいるとき、父の病気が発覚した。「この子が生まれるまで生きられないかもしれない」と考えた父は、まだ男女も分からないうち「真歩」という名前だけ先に決めた。父親はその後持ち直したが、真歩が小学二年生の冬に亡くなってしまった。

小学六年生になった真歩は、歳の割に落ち着いていて、学校でも笑顔を見せず孤高を保っていた。いつもフィルムカメラを持ち歩き街の風景を撮影していた。

ある日、真歩は転校生のハヤシくんから声をかけられる。よく知らないハヤシくんの急接近に戸惑う真歩だったが、ペースに飲み込まれ一緒に「文集委員」にされてしまった。真歩とハヤシくんは被写体を求めて街を巡り歩く。

決して笑わない真歩にハヤシくんは屈託のない笑顔を向け続けた。


二女 小春
高校三年生の小春は、派手な化粧を好み、制服の着こなしも校則ギリギリを攻めている「リア充」だが、友人たちとの付き合いに距離感も感じていた。

父親の月命日に、交際相手である佑介のバイクに乗せてもらい墓参りに行く途中、ファミリーレストランで母親が男性と一緒にいるのを見かけショックを受ける。


二男 凌馬
凌馬は友達とのバカ騒ぎを楽しむ高校一年生。
だが母が父の月命日に知らない男と会っていたという話を聞き凌馬もショックを受け、彼女が作った喫茶店看板メニューのビーフシチューも口にしなかった。

長男の光彦が家庭教師をしているあおいは、凌馬の幼馴染でもあり今も同じ高校に通っていた。
あおいの母親は、お受験に失敗したあおいより、その妹の英才教育に手を書けるようになり、最近では弁当も作らずお金を渡されるだけだった。
見かねた凌馬はあおいに弁当を作り持っていこうとする。


三女 るり
るりは小春の双子の妹で、同じ高校の3年生。
小春と違い真面目な性格で、成績も常に学年トップクラスだった。学校が終わった後には「星やどり」で母を手伝っている。

るりと同学年の松浦ユリカが急に近づいていきた。ユリカは授業に出ないけれど成績優秀、練習に参加しないのに陸上部で上位入賞しているという。
彼女はやがて「星やどり」にも顔を出すようになる。

そんな時、母が過労で倒れてしまう。


長女 琴美
長女の琴美は早坂家の三男三女を引っ張て来た。
警察官の孝史と結婚し家を出ているが、休日には「星やどり」での手伝いをしたり、早坂家の家事を手伝ったりしていた。

琴美は「星やどり」の経営が苦しいことを知り、母の心労も理解した。
母の真意を知った琴美は自分の身に起きた「奇跡」を打ち明ける。

感想

建築家として多くの人に幸せを届けた偉大な父親は、「家族の絆」を残し、死後も家族を守り続けてきた。

でも、家族は少しずつ姿を変える。

親に褒められて、人生の目的ができた人がいるかもしれない。
でもいつかは、自分で自分を褒めるようにならなければならない。

幼い子の成長を見守ることが生きがいになるかもしれない。
でもいつかは、その子の旅立ちを見送らなくてはならない。

死んでしまった父親は、もう変わることができない。家族の形が変わることについていけず、家族を縛る存在になってしまう。

家族の形を次の世代に進めるため、父は琴子に奇跡を贈ったのだろう。
家族を見守っていた小窓を手放し、子どもたちにもっと大きな空をみせるため。

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