朧月市役所妖怪課 河童コロッケ
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あらすじ
妖怪と人間が共存する朧月市で「妖怪課」の奮闘を描く。
公務員のお仕事小説 + 妖怪ファンタジー + ミステリ。
- 朧月市へようこそ
宵原秀也は、市民への奉仕に誇りを持っていた父の影響を受け、自らも公務員を志す。
秀也の勤務地となった朧月市は、かつて日本全国に散らばっていた妖怪を一つ所に集めた「結界」だった。秀也は妖怪と地域住民のトラブルを解決する「妖怪課」の職員として働くことになる。
着任初日から家のレイアウトを変えてしまう妖怪「長屋歪」に憑りつかれ、多難な前途を感じさせる始まりだった。
- 河狒狒住居侵入の件
臆病でめったに人前に姿を現さない「河狒狒」の目撃情報が2件続いた。
河狒狒を目撃したのは小学生の少女と、スナックを経営する女性だった。二人に接点はないように思われたが、ともに「肉のユキマル」でコロッケを買っていたことが判明する。
調査に手こずる秀也だったが、鏡に映った何者かが「すねあらいぶちへいけ!」というのを聞いた。
- 人面橘最終の件と、どんどろなミニカー窃盗の件
妖怪課に「人面橘」を処分してほしいという要求がきた。
人面橘は、目、鼻、口がついた蜜柑に似た大きな実をつける植物妖怪で、人語に近い声を発する。工場従業員が、敷地内に実った人面橘の声を怖れるので何とかして欲しいという。
妖怪課の職員が妖怪を殺すことは禁じられているが、植物の採集であれば問題ないという見解だった。
妖怪課の職員が採集した人面橘の実を食べると、中からブリキの戦車が現れた。
それは先日、質屋から盗まれた骨董価値のある玩具だった。金属を好んで持ち去るという「どんどろな」の犯行と思われる状況だったが、妖怪課職員たちは不自然さを感じていた。
- 市長執務室・妖怪探しの件
朧月市市長の黒乃森幸雄が、宵原に直々に仕事を依頼してきた。「市長執務室にひそんでいる妖怪を探して欲しいという。
部屋には黒乃森が作った、市職員を模した紙粘土人形が飾られていた。
だが室内に妖怪の気配はなく、秀也は途方に暮れる。
感想
作中に「かつて日本全国にあった、妖怪と人間の共存。これが朧月市が守るべき日本の原風景です」という台詞がある。
でも、今でも日本全国に妖怪がしっかり息づいていると感じる。
日本人は命のないモノにも、物質ですらない出来事さえもガンガン擬人化していくことがごく自然にできる。
自然に人格を見出す「アニミズム的感覚」は、妖怪を生み出した心と繋がっている。
キリスト教圏など、自然を人間が克服すべき対象だと捉えている文化では、モンスターは倒すべき敵なのだろう。
一方、日本などアジア圏の多くでは、恐るべき力を持ったモンスターも、敬いながら共存しようとする。
自然はしばし人間に牙を向ける。でも大いなる恵みももたらしてくれる。
人間が自然をコントロールすることはできないけれど、できるだけ仲良くやっていこうという考え方だ。
ポケモンだとかドラクエの一部だとか、モンスターを仲間にして一緒に冒険するシステムなんて、西欧文化圏では生まれなかったのだと思う。
妖怪の話に安心感を覚えるのは、自分の中にもそういう自然観があるからなのだろう。
昨今の「萌え擬人化」隆盛をみても、日本の妖怪はまだまだ安泰だ。