折れた竜骨
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あらすじ
12世紀、ヨーロッパ北部の北海に浮かぶソロン諸島を舞台としたミステリ。
ソロン諸島は大きな港町を持つソロン島と、領主であるエイルウィン家だけが住む小ソロン島で構成されていた。
領主の娘アミーナ・エイルウィンは、ソロン島の港町でファルク・フィッツジョンとニコラ・パゴの二人と会う。彼らはアミーナの父である領主ローレント・エイルウィンに急いで伝えたいことがあるといった。
アミーナは渡し船を使って小ソロン島のエイルウィンの屋敷に戻り、ファルクと父ローレントとの面談を取り次いだ。
ローレントは、ソロン島を狙うデーン人の来襲を警戒していた。
かつてソロン島にはデーン人が住んでいたが、ローレントの祖父がソロン島を侵略し、現在までエイルウィン家が治めているたが、デーン人たちは「呪い」を受け不死となって反撃の時を待っていた。
デーン人の来襲が近いことを知ったローレントは、守備固めのため傭兵を募っていて、ファルクたちは傭兵たちと一緒に面談することになった。
ファルクは、東方のトリポリ伯国の騎士で従士のニコラとともに、邪悪な魔術を使う「暗殺騎士」を追っているという。
暗殺騎士の一人エドリックがソロンに渡ったという情報を得たファルクは、彼を追いこの島に訪れたといい、領主であるローレントに警戒するよう忠告した。
だがその夜、ローレントは作戦室で何者かに殺害されてしまう。
アミーナはファルクたちと一緒に、暗殺騎士エドリックを探し始めた。
だが実際にローレントを殺したのは、エドリック本人ではなく彼に魔術をかけられ操られたミニオンであることが分かった。
暗殺騎士の魔術は、相手の血を使って行う。
操られたミニオンは、普段の自分の知識に基づいて行動するが、犯行後はその記憶を失ってしまう。
殺害現場の状況や出入り口の足跡などから、実行犯であるミニオンとなったのは、ローレントがその夜作戦室にいると知っていた人物に限られることが分かった。
・アミーナ
・家令のロスエア
・従騎士のエイブ
・5人の傭兵
・ファルクとニコラ
がその対象だ。
また、犯行のあった夜、数十年前から監禁されていたデーン人のトーステンが牢から抜け出し行方不明となっていることが判明した。
アミーナとファルクたちは、それぞれの行動を確認し、ミニオンになった人物を割り出し、暗殺騎士エドリックの行方を追った。
感想
「剣と魔法」のファンタジー世界を舞台としたミステリだ。
姿を消せる魔法や、人を操る魔法、記憶を消してしまう魔法がある世界では、アリバイや目撃証言などが意味を持たず、普通のミステリ的な論理パズルは成り立たない。
だが本作では、魔法が使える条件などを厳密に決めることで「ファンタジー世界内部でのロジック」が成り立っている。ある意味純粋な論理パズルになっているともいえる。
考えてみれば、どんな推理小説も「お約束」のもとに成り立っているファンタジーであるともいえる。曖昧な現実に寄せようとすれば、解釈次第の曖昧さが残ってしまう。すべての条件を厳密に決められるファンタジー世界は意外とミステリと相性がいいのだとは思う。
破綻させずに読ませる米澤さんの筆力が凄まじいというのもあるが。