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知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ

知的複眼思考法 誰でも持っている創造力のスイッチ

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要約

常識にとらわれたものの見方をずらし、自分の頭で考える技法を紹介する。
多数挙げられた「ずらして見る」実例がどれも斬新で刺激的。

  • 知的複眼思考法とは何か

自分の頭で考えているつもりでも、常識にとらわれてしまい「そんなもの」だと簡単に受け取ってしまっていることが多い。

常識やステレオタイプにとらわれず物事を考える技法を「知的複眼思考法」と名付け、本書ではその具体的方法を指南する。

常識にとらわれている具体的な例として「答案にABCが書かれていれば評価だと決めつけてしまう」ケースなどを上げている。
事件が起こった場合の報道規制などでも、国家権力が介入するのは問題だが、自主規制で「常識的ラインに従おう」とする方が過剰な規制になってしまう可能性もあるという。

複眼思考で状況を広い視点で見直し、自分なりの考えを持つことが必要だという主張だ。

  • 創造的読書で思考力を鍛える

知識を得ることや娯楽が目的であれば、本よりも適したメディアはたくさんある。それでも本の方が優れているのは「知識獲得の仮定を通じて、じっくり考える機会を得る」ことができる点だとする。

著者も苦労しながら伝えようとしている。著者のいうことを鵜呑みにするのではなく、著者と対等な関係で批判的に読んでいくことが重要。
批判的といっても攻撃的に非難するわけではなく「書かれていることに根拠はあるか、違う例もあるのではないか」など、そのまま信じない読み方を意味する。

著者の立場など前提を掴み、著者の狙いを掴んだうえで、論理を追う読み方が求められる。

本書では新聞記事を参考に、実践的な「批判的読書」の方法を紹介している。

  • 考えるための作文技法

批判的に読むためには、書く側の立場も知る必要がある。
例えば「論理に飛躍がある」と指摘するだけでなく、どうすれば飛躍を埋めることができるのか代案を示せなければ、十分な批判とはいえない。
また、考えることは書いて発信することによって意味を持つ。

書く技法を身につけることも、複眼思考に不可欠だ。

批判的に書くためには、違う前提に立って批判することが有効だ。
本書では「若い男性のふがいなさを嘆くエッセイ」を対象に、若い男性、女性、教育関係者、会社経営者など、視点をずらして見る例を示している。

  • 問いの立て方と展開の仕方

考えるためには質の良い「問い」を立てることが必要。疑問を感じることに留まるのではなく、問いを立て展開することでより深い思考に繋がっていく。

第一段階としては「どうなっているのか」という問いがある。
こういう問いには単に調べればわかるものもあり、それだけでは思考が広がっていかない。

「なぜそうなっているのか」という因果関係を問うことで思考が深まっていく。

因果関係を確定するためには、原因が結果より先に生じていること、原因も結果もともに変化していること、その他の要因が影響していないことを確認して探っていく必要がある。

一見相関関係があるように見えるが、実際には他の要素の影響が大きいような「疑似相関」を、見抜き排除していく必要もある。それ以外の要素を揃えて見たり、違う環境でのケースと比較することで検討していく。

大きな問いから条件を分割したサブグループに分割して考える。
例えば、就職難の原因を「不景気」だけで納得してしまうのではなく、男女に分けてそれぞれの要因を考えたり、企業側と求職側に分けて考えることで、思索を深めることができる。

さらに「概念」を通して、抽象性のレベルを上げたり、逆に具体的なケースのレベルに落としたりする。
抽象化が高すぎると「分かったような気」になってしまうし、具体的過ぎると全てケースバイケースで話が進まなくなってしまう。

抽象化のレベルを使い分けて問いを展開していくことが大切。

  • 複眼思考を身につける

複眼思考では
・ものごとの多面性をとらえるための「関係論的なものの見方」
・意外性を見つけるための「逆説の発見」
・ものごとの前提を疑うための「メタを問うものの見方」

を身につけることを目指す。

「関係論的な見方」の例として「過労死」が挙げられている。
以前は「働きすぎで死んでしまった人」は、本人の健康問題とみられるケースが多かったが、働かせる人と働く人の「関係」に着目することで「過労死」という新しい視点が生まれた。
また「IT」や「権力」など、抽象度が高く分かった気になってしまいがちな単語については「IT化」や「権力化」のように○○化とすると、○○しようとする主体との関係に考えを至らせることができる。

「逆説の発見」では「行為の意図せざる結果」が逆説を生むとしている。
マックス・ウェイバーが『プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神』で「プロテスタントが宗教的な理由から禁欲を進めたことが、結果的に合理的な生活態度に繋がり、意図せず資本主義の基盤となった」と論じているのが、「逆説」の一例だとしている。

「メタを問うものの見方」とは「問うこと自体の意味」を問うことを指す。
どのような意図をもって発せられた問いなのか、問いを発した人の立場はどのようなものか、誰に向けた問いなのかなど、問いが発せられた文脈を理解するよう努めることを指す。

感想

固定観念をずらされた時「面白い」と感じる。常識が崩れる瞬間は刺激的だ。
本書で挙げられた具体例と、その視点のずらし方は実に興味深い。

本書で挙げられている以下の3点、
「ものごとの多様性に着目した関係論的な見方」
「意外性を見つけるための逆説の発見」
「物事の前提を問うメタ的な見方」
は、まさに「頭の良さ」を感じさせる要素そのものだ。

一面的な見方で自他を追い詰めてしまうことなく、関係論的に相対化したり、メタ的な見方で本当の問題を見つけたりすることができるのが、成熟した人間だといえるだろう。

固定観念をずらされる感覚は刺激的だ。
本書は四半世紀近く前の出版で、具体例は古いものであっても、その見方は斬新で、今読んでも十分に脳みそを揺さぶってくれる。

ミステリでも叙述トリックが大好きだし、固定観念を壊される感覚がとにかく楽しい。

多くの人に読んで欲しい本だ。

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