閻魔堂沙羅の推理奇譚 金曜日の神隠し
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あらすじ
『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズ第6弾。初の長編。
41歳の新山律子は、かつて母親の町子からネグレクトを受けながら、母子家庭で育った。
律子の中学時代に町子が殺人を犯し、その事実から逃げるよう名字を変え、伯父と一緒に暮らしていた。
律子のひたむきな努力が実って優秀なデザイナーとなり、店舗プロデュース会社の経営に携わるようになった。だが夫とは離婚し、中学生の娘 美久とも関係が悪化していた 。
そんな折「町子に金を貸し逃げられた」という街金業者から連絡が入る。殺人犯の娘だということを周囲に知らされたくなければ借金を肩代わりしろと脅迫を受けた。
同じころ、ずっと絶縁していた町子が律子の家を訪れ、しつこく付きまとってくる。
街金業者が連絡したことで、元夫や会社の共同経営者にも律子の母親が殺人犯であることが知られてしまう。律子が汚名から逃れ必死で築きあげてきたものが、再び母親によって崩されようとしていた。
その後、何者かに殺された律子は、死後の裁きを受ける閻魔堂で、娘美久の身を心配していた。律子は母親としての資質がなかったことを嘆くが沙羅は「真剣に考えていなかっただけ」だという。
律子は生き返りをかけた推理ゲームに挑み「見えている事実から真実を推理する」ことに挑戦する。
感想
律子の生き様が凄まじい。
幼少期から親の愛情を受けることなく、多感な中学時代には母親が殺人犯となってしまう。
傷つき周囲から責められた分「完璧でないといけない」という思いが強くなる。
夫や娘にも完璧を求めて敬遠され、決して弱みを見せない姿勢が会社の共同経営者との間にも壁を作っていた。
「殺人犯の娘」という設定は重すぎるが、そこまではいかないにしても、自分の「弱み」を隠したいという気持ちは誰にでもあるだろう。
でも本当は、自分の「弱み」をオープンにできること自体は「弱さ」ではない。むしろ、得難い「強さ」だ。
「弱み」を持たない完璧な人間などいない。それでも人は自分の「弱み」は防御しようと思う。一方で周囲の人間が張り巡らした壁には不快感を覚える。
弱さをひた隠し防御しようとする律子の苦悩と、律子が守りを解いた時の美久の姿の対比は感動的だ。
子供は親に完璧出ることを求めるのではない。自分とどのように関わろうとするのか、失敗する姿を含めて見ているのだ。
初期はわりと単純な勧善懲悪的な話から、シリーズを重ねるごとに著者の主張が前面に出始めている。
短編向きの舞台設定だと思ったが、長編でもダレない密度の濃さだ。