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閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人

閻魔堂沙羅の推理奇譚 A+B+Cの殺人

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あらすじ

『閻魔堂沙羅の推理奇譚』シリーズ第7弾。
閻魔大王の娘 沙羅が「生き返りをかけた推理ゲーム」を投げかける。

・宮沢竜太 44歳 無職:死因 絞殺

宮沢竜太は、ヤクザ組織から追放されて以降ずっと無職だった。地元の有力企業オリエ社の社長の弱みを握って小金をせびりながら、酒浸りで生活していた。

竜太には、志郎と汐緒里の二人の子どもがいた。
妻の夏姫が、生活力のない竜太に代わって子どもたちを育てていたが、末期すい臓がんで余命僅かと診断された。支えとなっていた妻に死が迫っていることを知り、竜太はさらに自堕落になり酒に溺れた。

父親に見切りをつけた志郎は、妹の汐緒里を連れ、二人だけで生きようと心に決める。小学生でははたくこともできず、山奥に放置された空き家で生活を始める。

人間界に遊びに来ていた沙羅は、志郎たちの万引きに巻き込まれ霊界に戻るタイミングを失ってしまう。結局沙羅は霊界への帰り道が復活する翌日まで、彼らと行動を共にすることにした。

竜太が家で酔いつぶれていると、学校教師と児童相談所所員がやってきた。
教師たちは、宮沢家の生活を支えていた母親が危険な状態であることを知り、子どもたち二人が今後どうすべきか提案してきた。だが竜太は話を受け止めることができず、二人を追い返してしまう。

その後に竜太の弟である貴道もやってくる。
良い条件の就職が決まり経済的に余裕が出そうなので、子どもを引き取るという。竜太は貴道にも怒りをぶつけ追い返した。

さらにその後、志郎と汐緒里がこっそりと荷物を取りに戻ってきた。
二人に気付いた竜太は志郎と衝突するが、まだ小学生子どもに殴り倒されてしまう。酒浸りの生活でそこまで体力が落ちていた。
汐緒里は「今夜病院を抜け出したい」という夏姫からの手紙を、こっそりと竜太に渡した。

その夜、夏姫からの手紙を受け取った竜太は、彼女を願い通り病院から抜け出させた。二人の出会いの場所である山奥の神社を訪れ、その後アパートに戻り高級ワインで飲み明かす。
酔いつぶれ眠ってしまった竜太が目覚めると、何者かが後ろから襲いかかってきた。竜太は首を絞められそのまま死んでしまう。

同じ夜、志郎と汐緒里は、竜太の沙羅とともに空き家に戻った。そこで沙羅は何者かの殺意を感じ二人を家から逃す。その直後、家に火がつけられ全焼してしまった。

明け方になって志郎と汐緒里は沙羅と一緒に父のいるアパートに向かい、そこで父親の遺体を発見する。

前日に志郎が竜太に暴力をふるっているのを見たという証言もあり、志郎が父殺しの容疑者とされてしまう。

沙羅が、その夜ずっと志郎といたことを証言できればアリバイとなる。だが人間界にいたことが知られていはいけない沙羅は、宮沢竜太の「ケツを蹴る」ことを思いついた。

霊界に戻った沙羅は、死んだ竜太の審判を行う。
本来なら地獄行きだが「竜太を殺した犯人が誰なのかを当てる推理ゲームに勝てば生き返らせる」と申し出た。

竜太は自分の人生を振り返り、地獄落ちは当然と考えた。
だが、妻の最後の願いを想い、二人の子どもの行く末を考え、生き返りをかけた推理ゲームに臨む。

感想

本作は前作に続いて再び長編。
作者のメッセージが色濃くなっている。

今までの作品は被害者の視点から語られ「被害者視点の倒叙」というやや特殊なミステリ形式での謎解きがメインだった。

本作ではそこに沙羅の視点が加わっている。沙羅の口を借りて、より直接的に著者の思いを語らせた、メッセージ性の強い作品だ。
「グダグダ言わずに、とにかく考えて行動しろ!」というメッセージを熱く繰りている。

沙羅は、道徳的に「悪い行為」を批判するよりも、自堕落になり「思考放棄すること」「行動を起こさないこと」自体に罪があると考えている。
一方で、無鉄砲で、ときに法に触れることがあっても、とにかく行動し続けて現状を打破しようとする兄妹は「友だち」だといって、協力を惜しむこともない。
「行動し、挑戦し続けること」にフォーカスしている。


世の中にはどうしたって「運」に左右されることがある。恵まれない環境に翻弄されることもあるだろう。
その時点では分からない情報もあり、どれだけ頭を使っても正解にたどり着けるとは限らない。
だからといって、そこで手を止めてしまったら何も変わらない。

運には偏りがあっても、試行回数が増えれば、大数の法則に従って理論値に落ち着く。
まずは自分の頭で考えて分かる範囲で最大限合理的な判断をすること。
そのうえで試行回数を増やし挑戦し続ければ、いつかは確率の壁を越えて、合理的な結果に落ち着くということだ。

そもそも本シリーズの「被害者視点倒叙」という特殊なミステリ形式も、被害者=読者に「考えて行動を起こすこと」を要請するフォーマットだ。

ミステリの解決編なんて流して読んで、作者が用意したトリックを楽しむのが普通だが「材料は揃ってるんだから自分の頭で考えろ」と、しつこく言ってくる。

とにかく自分で考え動くこと。作者の思いが改めて伝わってきた。




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