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さよならドビュッシー

さよならドビュッシー

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あらすじ

中学3年生の香月遥は幼いころからピアノの練習を重ねてきた。
その能力を評価され、音楽特待生として有名高校への入学を決める。
遥は従妹の片桐ルシアと共に、厳格なピアノ講師の元に通い、指導を受け続けていた。

遥の祖父は不動産会社を経営する地主で、経済的には恵まれていた。
だが、遥とルシアが祖父の住む離れに泊まった夜、そこで火災が発生する。
遥は祖父を助けに向かったが助けは間に合わず、祖父もルシアも炎に包まれるのをみた。
やがて遥も炎に襲われ意識を失う。

彼女が気がつくと病院のベッドに寝かされていた。
全身の感覚を失い、話すこともできず、瞼が焼け目を開くこともできない。

遥の母からは「祖父とルシアは火災で死んでしまった」と伝えられる。
また医者は「遥の全身はⅢ度の火傷に見舞われ、皮膚移植で奇跡的に命を繋いだ」のだという。整形手術の成功で、以前の遥と変わらない顔にはなったが、移植した皮膚に覆われた体は少し動かすだけでも悲鳴を上げた。
やがて瞼は開き、話すことはできるようになったが、焼けた喉からは低く嗄れた声しか出なかった。

祖父の死を受け、会社の弁護士が、香月家の人々に遺産相続の説明をする。
祖父は遺書を残しており、12億円以上ある遺産の50%を遥に渡し、遥の父と遥の叔父にそれぞれ25%ずつを渡すこととしていた。
ただ、まだ高校生の遥と、定職についていない叔父の分は、条件付きの「信託財産」とされていた。
遥の分は彼女の音楽活動に必要な費用分のみ都度支払われる。叔父は独立し定職に就くか事業を起こす場合にその資金として支払われるという条件だった。

退院した彼女は、それでも高校に通い始めた。
遥は音楽特待生として入学を認められていたため、学校からは「重傷を負ったからといって、実績を残せなければ特別扱いはできない」と釘を刺される。

母は遥にピアノレッスンの再開を求めたが、以前の遥のピアノ講師は、指が動かなくなった彼女を見てレッスンはできないといった。
だがその場にいた新進ピアニストの岬洋介は「それでも君はピアニストを目指すのか」と問う。彼女は「ピアニストになりたいんです」と答え、岬は彼女のピアノ指導を請け負った。

彼女が岬のピアノ指導を受けている間、階段のすべり止めが剥がされていたり、松葉づえのボルトが外れやすくなっていたりしていた。
状況を調べた岬は、何者かが事故を装って彼女に危害を加えようとしているのだという。

ピアノ練習がリハビリになり、彼女の指は徐々に動くようになってきた。
彼女は学校で演奏を披露し、教師は遥に学生コンクールに出場するよう推薦した。

まだ、指の動きが不完全で、連続で演奏できるのは5分程度だった彼女は、出場
を躊躇するが、遥の母は彼女に参加を強く勧める。
岬の言葉もあり、彼女はコンクールへの参加を決意した。

だが、彼女が練習に取り組んでいるとき、遥の母が神社の階段から転落して死亡するという悲劇が起きた。祖父、従妹に続く親族の死に彼女は打ちひしがれる。

遥の母が亡くなってから、回復していた指が演奏中急に感覚を失うようになった。手術をした医師は「指自体には問題なく、PTSDのような精神的な問題の可能性が高い」という。

そんな時、彼女は帰宅途中、何者かに肩を押され車の前に飛び出してしまう。
偶然その場に居合わせた岬が助け一命をとりとめたが、直接的な殺意に彼女は怯えた。

その夜、岬は香月家で夕食を取り「魔法の言葉」を投げかけた。
それ以後、彼女への直接的な殺意も消え、彼女自身のPTSDも寛解していった。

岬は彼女を狙った犯人が誰なのか分かったのだという。
だがコンクルールが終わるまでは、その正体は明かせないのだといった。

悲劇を売り物にするマスコミや、遥の境遇に嫉妬するクラスメートたちに悩まされながら、彼女は岬の助言を受け乗り越えていく。

やがて迎えたコンクール当日、彼女は全てをぶつけて戦った。

感想

迫力ある音楽演奏の描写や、緻密に伏線が張られたミステリ要素も面白い。

でも何より心を打ったのは、絶望する彼女に投げかけた岬の言葉だ。
松岡修造ばりに熱い。

岬は「自分で尊厳を捨てない限り、人はそうそう堕落しない」のだという。
自分に誇りを持ち続けていれば持ちこたえられる。逆に自分を諦めてしまえば、人は簡単に腐ってしまう。

立て続けに親族をなくし、火傷でツギハギだらけの身体を好奇の目で見られた彼女も、岬自身も苦しささを抱えている。
それでも「人はここまで強くなれるのだ。どんなに絶望しても、どんなに心が折れても、諦めさえしなければ灰の中から不死鳥がよみがえるようにまた雄々しく立ち上がることができるのだ」と、強く生きる姿勢を賞賛し、読者の背中を押してくれる。

自分を諦めないというのは「何か特別なことしなければならない」わけではない。他人から見れば「普通のサラリーマン」だって、その人にはその人のドラマがある。なにをしているかではなく「どれだけ真摯に向き合っているか」だ。
「みんなと同じ道と言うけれど、それは別に一本の道ではない。一人に一つずつ道はある」のだ。

想像以上に面白かった。
続編も読んでみよう。





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