詐欺師は天使の顔をして
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あらすじ
抜群の洞察力と綿密な下準備で、裏方として「霊能力のショー」を組み立てる呉塚要と、人目を惹く外見と抜群の演技力で「カリスマ霊能力者」になりきる子規冴昼。二人の完璧なコンビネーションは世間を巻き込み騒がせていた。
だがある日、冴昼は「初雪を見てくる」と言い残し失踪した。
要には、別の「カリスマ霊能力者役」を探すことができない。それから3年間、ただひたすらず冴昼を待ち続けた。
3年後、事務所に冴昼から電話がかかってきた。その直後「どこかで聞いたことのある声」で要のスマホ宛てにも電話がくる。
その電話が指定した場所にあった公衆電話ボックスから発信すると、要は「異世界」に飛ばされた。
- 第一章 超能力者の街
要が飛ばされたのは「すべての人にキャリア(=サイコキネシス)が使える」世界だった。建築物も食べ物も、手を使わずにモノを動かせることを前提とした作りになっていた。
この世界で冴昼は「殺人事件の容疑者」として任意聴取を受けていた。
とある会社社長がビルの屋上で殺されたが、現場ビルの劣化した非常階段に誰かが踏み抜いた形跡があった。
この世界の住民であれば、階段など使わず数メートル離れた向かいのビルから「キャリア」を使って攻撃すればいい。
階段を使ってまで相手に近づく必要があったのは「キャリアが使えない人間」だという乱暴な理論で、冴昼に疑いが向けられていた。
要は担当弁護士と共に、会社の社員たち事件の関係者に話を聞き「子規冴昼にとって最善である」解決を探した。
- 第二章 死者の甦る街
「超能力者の街」から戻された要は、再び冴昼と出会うため「異世界に繋がる公衆電話」の出現を待ち望んでいた。
待ち望んでいた「公衆電話ボックス」が再び出現すると、一人の女性が入ってしまった。要は彼女を追うようにボックスに入り異世界に飛んだ。
彼女は美見川江奈と名乗り、異世界に迷い込んだ友人のヘルベルチカ(ヘルヴィ)・ミヒャエルスを探しに来たのだという。
要と美見川は冴昼とヘルヴィに会う。
ヘルヴィも冴昼と同じ「ヴァンデラ(彷徨者)」で、数日ごとに違う世界に転移しているのだという。美見川は要が冴昼を追うのと同じように、ヘルヴィを追いかけていた。
この世界は「幽霊の実在する街」だった。
人は一度は死ぬが、幽霊として蘇り、それ以降再び死ぬことはない。
「人はどうせ死ぬ」ものとして、死が軽く扱われていた。
その世界で、ヘルヴィが殺された。
幽霊になって甦ったヘルヴィは、誰かに階段から突き落とされたのだという。
だが彼女の死体は落下後誰かに動かされた形跡があった。
この世界で殺人にはあまり意味がない。
死んでも蘇るから、相手の存在を消すことはできない。ヘルヴィを殺した犯人の意図は分からなかった。
もし過失だとしてもその罪は軽く「たかが殺人」で自首してこないのが不自然だと思われていた。
この世界では幽霊として死者が蘇るため、人口が増え続けてしまう。
そのため「子供を産むこと」は許可制で、厳密な審査に通らなければ出産は許されない。
この審査に通った男が自動車事故で死亡してしまう。蘇った彼は「単純な運転ミス」による事故死だと述べたが、現場状況には不自然な点があった。
要と冴昼は、ヘルヴィ殺しの謎を解く。
- エピローグ ●●●の街
要は三度冴昼を追う。
ネタバレ考察
城平京さんの「虚構推理」のように「たった一つの真実」より「都合の良い虚構」を求める。
「嘘つき好き」には楽しめる話だった。
だが最後、エピローグ部の終わり方には唐突感がある。
どうも全てを語り切っていないようだ。
残された謎を考察してみたい。
① 時間の流れの変化
要が冴昼を待っていたのは「3年間」だが、冴昼が「超能力者の街」にいたのは体感で「2週間程度」だった。
ここから「元の世界と超能力者の街」では時間の流れが違うように見える。
だが、要が「超能力者の街」で「3日間程度」を過ごした後、元の世界に戻って経過していたのは「3日間」で、時間の流れに差が無くなっている。
② 2番目に要に電話をかけたのは誰か
要のスマホに「聞いたことのあるような声」で電話があり「異世界に繋がる公衆電話」のことを教えた。
後に声の主は「冴昼と要に崩壊に追い込まれ自殺し新興宗教の教祖」の声のようだったと思い出す。
ここから考えると「異世界に飛んだとき、要の時間は冴昼の時間に追いついた」のだと思われる。
「自殺したと思われていた教祖が3年前に冴昼を殺し、今になって要も殺された」というのが、一つのシンプルな解釈だ。
あるいは「最初からすべてが冴昼の計画通り」で、冴昼が要を「永遠に循環する世界」に誘い込んだというだけの話なのだろうか。
斜線堂さんの作品は、解釈の余地を残してくれるので、考察がはかどる。