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静おばあちゃんにおまかせ

正義というのはね、困っている人を助けること、飢えている人に自分のパンを分け与えること。『静おばあちゃんにおまかせ』

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それはないでしょ。。
おばあちゃん。

元女性判事の高遠寺静が、孫娘の高遠寺円から話を聞いて謎を解く、全5編の安楽椅子探偵ものの短編集。

高遠寺静は、同じく中山七里さんの作品『テミスの剣』に登場した女性判事だ。昭和末期から平成初期にかけての事件を扱った話で、当時すでに退官間際という設定だった。そこで孫娘が生まれたという描写があったので、本作品との連携が考えられていたのだろう。(調べたら『静おばあちゃんにおまかせ』の方が1年ほど先に出発されてました)

『テミスの剣』における高遠寺静は、とにかくかっこよかった。多作な中山七里さんは、多くのヒーロー・ヒロインを生み出しているが、その中でもダントツのかっこよさだ。

神でない不完全な人間に、完全な判断などできるわけがない。でもだからとって、真実を追い求めることをあきらめない。

「自分は間違っているかもしれない」という思いを持つからこそ、真摯に自分の全てを賭けて、真実を追いかけようとする。「俺は正しい」と突っ走る刑事の胸糞悪さとの対比で、高遠寺静のかっこよさが際立っていた。


本作では時代を移し、孫娘の円に自分の思想を伝えていく。

正義とは何か、真実とは何かを問い続けた人生の果てに、円からの「正義って何?」という問いへの答えが素晴らしい。

「正義というのはね、困っている人を助けること、飢えている人にパンを分け与えること」
公平でも平等でもないし、功利的でも宗教的でもない。けれど、すっと心に入る。

ミステリとしてはあっさりしている本作だが、
静の思いが次世代に伝わっていくのが、感動的だった。オチには賛否両論あると思うけど。


高遠寺静ファンとしては、シビレる本でした。

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あらすじ

第1話 静おばあちゃんの知恵
神奈川県警の組織犯罪対策課長が殺され、同じ課の椿山が容疑者として逮捕された。

かつて椿山に指導を受けた警視庁刑事の葛木公彦は、椿山にかかった嫌疑を晴らすため、業務外の個人的活動として事件を調査する。

葛木は椿山との会話で彼の犯行でないことを確信したが、被害者の遺体に残っていた銃弾のライフルマークが椿山の銃と一致したことから、無罪を証明するのは困難を極めた。

葛木はかつて捜査で知り合った女子大生の高遠寺円に事件の話をする。
円の祖母、かつて裁判所判事だった高遠寺高遠寺は話を聞いて事件の真相にたどり着いた。

第2話 静おばあちゃんの童心
女子大生の朝倉美緒が祖母の朝倉喜美代の家を訪れ、彼女が殺されているのを発見した。

遺産目当ての犯行の可能性から、喜美代の二人の子供と孫の美緒にも容疑がかけられたが、全員が犯行推定時刻には完全なアリバイを持っていた。

事件を担当した葛木は、同じ女子大生の円に美緒への聴取を手伝ってもらう。
澪から話を聞いた静は事件の真相に気付いた。

第3話 静おばあちゃんの不信
葛木は、新興宗教団体「至福の園」への潜入捜査を命じられた。

教祖の総領龍人は、死から復活するのだという。
警察幹部の娘、釘宮亜澄は「至福の園」に入信し、教祖が死んだ瞬間を目撃して、彼が甦るのを信じ待っていた。

亜澄に近づくため、円が体験入信として教団に潜入する。
円は静から聞いた、教祖の死と復活のトリックを亜澄に明かすが、教団員に拘束されてしまう。

第4話 静おばあちゃんの醜聞

地上数百メートルのクレーン操縦室で男が殺害された。

同じ現場で別のクレーンに乗っていたブラジル人のパウロが容疑者として挙げられる。事件を契機に、外国人労働者の労働環境問題に火がつき、警察上層部は早急な解決を求め、現場にプレッシャーをかけた。

葛木は所轄署と組んで捜査にあたる。
チームを組んだ警察官の三枝光範は、13年前に円の両親を奪った交通事故を起こした人間だった。

葛木はクレーン殺人事件の謎を解きながら、密かに過去の事件について調べ始めた。


第5話 静おばあちゃんの秘密

南米の小国の軍事政権大統領ロドリゲスが来日中に殺害された。

大統領が宿泊していたフロアには、数名の護衛兵に常に監視され、外からの出入りはありえない。

護衛兵自身にも、同フロアにいた大統領夫人にも、犯行時刻にはアリバイがあり、誰にも犯行は不可能なように見えた。

捜査に加えられた葛木は、再び円を通して静の知恵を借りた。

大統領暗殺事件の解決後、円の両親の事故死の真相を明かすため、関係者が高遠寺家に集まる。

そこで明かされた静の秘密とは。

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