朧月市役所妖怪課 号泣箱女
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あらすじ
『朧月市役所妖怪課 河童コロッケ』に続くシリーズ第2弾。
妖怪ファンタジー + ミステリ +公務員のお仕事小説+恋愛 と盛りだくさん。
かつて日本中にいた妖怪が集められた隔離された朧月市。期間限定の自治体アシスタントとして朧月市に赴任してきた宵原秀也は市役所の「妖怪課」でトラブル解決に奔走する。
日本の原風景である「妖怪と人間の共存」を守ろうとする黒乃森市長の下、妖怪課は人間に害をなす妖怪であっても、殺して退治するのではなく、隔離したり封印するという手段を取っていた。
ところが「揺炎魔女計画(フレアウィッチ・プロジェクト)」という民間団体が、妖怪退治を謳い活躍し始め、妖怪たちを殺し始めた。公務員である「妖怪課」の動きの鈍さに不満を持つ市民たちのなかで評価を高めつつあった。
妖怪課では黒乃森市長の肝いりで宵原をチーフとした「夜の部」を組織し、フレアウィッチの活動をけん制しようとしていた。
第1章: 壁蝙蝠封印解きの件
とある学校に壁蝙蝠が出現するとの情報で妖怪課が出動する。
酒を好む壁蝙蝠が標本のホルマリンを狙っているという。封印場所から壁蝙蝠を開放したのは一体誰なのか。
第2章:箱女出現の件
箱から箱へと瞬間移動できる箱女がショッピングセンターに現れた。
相談を受けた妖怪課はショッピングセンターに向かうが、そこには別ルートで依頼を受けていたフレアウィッチも来ていた。
第3章:茫黒玉滞留の件
茫黒玉は数センチから数メートルの黒い球状の妖怪。人間の手では触ることができず、すり抜けてしまうが、完全に内部に取り込まれると神隠しのように消されてしまう。
ある日なぜか黒乃森市長宅の前に茫黒玉が浮かんでいた。居合わせた宵原たちは、茫黒玉を動かす方法を模索する。
第4章:朧月市妖怪条例改正案、議会へ
黒乃森市長は、民間団体の妖怪退治を制限する条例を成立させようとしていた。
しかし、黒乃森に反対する陣営が不穏な動きを見せる。
感想
「お役所仕事」と揶揄される公務員にだって、できる範囲で本気で役に立ちたいと思っている人もたくさんいるのだろう。どうすれば、そういう人たちに報いることができるのだろうか。
多くの公務員には「収益性」という物差しがない分、業績評価が難しい。
売上増加などの目に見える基準がないから、積極的な取組みによるプラス評価よりは、ミスによるマイナス評価が勝つ、減点主義となりがちだろう。
人員配置の適正化も難しい。多忙でも利益を上げるわけではなく結局はコストが増えるだけだ。人員配置は収益性とは別の政治力で決まってしまう。頑張っても忙しくなるだけなら「適当に捌いていればいい」となるだろう。
これは別に公務員に限った話でもない。硬直化した大企業などでも同様の傾向があるのではないか。
極端な成果主義は競争を過激化させ人心を荒廃させる。
だが動機付けのドライバとしては優秀だ。
問題はそれ以外に有効なドライバが見つかっていないことだ。
競争によらない評価報償の仕組みが必要なのだと思う。
本書では、熱意をもって改革を主導する市長はその活動では評価されず、「公用車を一度だけ私用で使った」というミスのため、その職を追われてしまう。
減点主義に対するなかなかの皮肉になっている。
一方、主人公の宵原は「争いに巻き込まれない」という特殊能力を持っている。
競争から外れたところで、自らを動機づけしている。
「競争によらない動機付け」は妖怪能力と同じレベルのファンタジーということなのだろうか。。